桜沢琢海・料理の誕生

食文化に造詣の深い桜沢琢海が綴る美食事典

ドリアはイタリア料理ではない?

ドリアはお米のグラタン。マカロニグラタンのライスバージョン。最近、生粋イタリア人が絶賛するミラノ風ドリアが話題になって、ますますイタリア料理のイメージが強いけど、ドリアって、フランス料理用語なんです。
確かにドリアはイタリア語。正しくは人名です。Doriaと綴り、イタリア・ジェノバの名門貴族のファミリネーム。ヨーロッパでは美食家としても知られた存在で、19世紀のパリで料理人達が料理を考案する際、美食の名門の家名にあやかって「ドリア風」と名づけたのが始まりだという。
赤や緑を使ってイタリアっぽい色彩になる料理とか、パルミジャーノ・レッジャーノチーズや白トリュフといった、イタリア産の食材を使った料理がドリア風。それは、決してライスグラタンではなかったのでした。

さて、では、私たちが大好きなライスグラタン版ドリアがいつ生まれたかというと、それは戦前の昭和の日本。考案者は横浜「ホテル・ニューグランド」に指導者として招聘されたシェフ、サーリー・ワイルであった。あるとき、冷めてしまったピラフがもったいないので、ベシャメルソースとチーズをかけてグラタンにしてみたら、美味しいこと! チーズがイタリア産のものだったので、ワイルはこの料理を「イタリア風の」という意味でドリアと名づけ、メニューに残した。ドリアという料理が、とってもポピュラーなのは、多分この横浜生まれのライスグラタン版ドリアであろう。

ところで、イタリア人絶賛のミラノ風ドリア。ミラノ風って何?という質問を受けたことがある。それはライスが黄色いこと。ミラノは、経済都市で金貨が潤う街だったので、ミラノ名物「オーソブッコ」などの肉料理には、金貨をイメージさせる黄色いサフランライスが添えられた。人気のミラノ風ドリアは、残念ながら高価なサフランではなく、ターメリックライスのようだ。でも、安くて美味しくて家族で満足、イタリア人も絶賛だから、それはそれでいいのだと思う。

ちなみにドリアについては桜沢琢海著『料理の誕生』にもっと詳しく書いてます。