桜沢琢海・料理の誕生

食文化に造詣の深い桜沢琢海が綴る美食事典

レディ・カーゾン(Lady Curzon)

レディ・カーゾンというと薔薇の名前で有名ですが、料理名でもあるんです。20世紀のはじめ、インド総督の英国人ジョージ・ナサニエル・カーゾンの奥方が考案したカレースープです。なんでも、総督様の家でもてなす晩餐で、お客が酒がのめないときた! 奥様はアメリカの上流育ちで、ドレスなんかパリの高級クチュールからお取り寄せのセレブな生活。おそらく、総督のお館のカーブには、ボルドーの超高級シャトーものがたくさん蓄えられてたんでしょうね。
「まあ、せっかくのディナーでお酒も飲めないお客だなんて! やぼった!だっさー!」と内心は思ったかもしれませんが、上品な奥様はあくまでも、お客を立てて、ノンアルコールのおもてなしを貫きました。でも、料理長を呼んでこう言ったのです。「料理にシェリー酒をたっぷりおつかいなさい」。こうしてできたカレースープは洗練された味わい。しかも具は今じゃあ、食べるのが憚られるウミガメだったのです。現在も、レディ・カーゾンのスープはアッパーなクラスのカレーとして人気がありますが、ウミガメが使えないので、スッポンで代用したり、オリジナルレシピとは異なるはずです。日本では、超クラシックな料理とされて、若い料理人さんが作ることはまずないのですが、軽井沢のホテルのレシピにこのメニューがあって、びっくりしました。けど、たしかスッポンでしたね。スッポンがなかったら、代用品は・・・・・・苦みからいってエスカルゴでしょうか?